ふしぎなwitchcraft

評論はしないです。雑談。与太話。たびたび脱線するごくごく個人的なこと。

テイラー・シェリダン×ジェレミー・レナー『ウインド・リバー』

f:id:kuro_matsu2023:20180803115727j:plain

欧州の冬はとても身に応える。はじめのうちは新鮮で、「日本の冬とはまた違う風情があるわあ」とクリスマスに現を抜かす余裕もあります。しかし、しばらくするとそうもいかなくなって、本格的に辛さが増してくる。雪が降ってはしゃいでたあの頃の明るさはどこへやら。そんな「一刻も早くここを離れたい」という気持ちにさせられた厳しい冬を、故郷の奈良が恋しくなるほどのロンリネスを、茹でだこになりそうな真夏にリアルな肌感覚といっしょに思いだしました(余計なことを)。まあ劇場の冷房が効きすぎていて、汗でぐちょぐちょの半袖・半ズボンにはまったくやさしくない環境下での鑑賞だったというのもあったとは思いますが。

 

早く観たいのに先延ばしにされまくりふるえました

まず、なんといっても今作「どんだけ待ったと思ってるんだ」というのがありまして、この映画の情報が自分の耳に入ったのが2016年の12月。ハリウッド女優、いや、世界の女優の中でもトップクラスに好きな女優、エリザベス・オルセンが、『アベンジャーズ』でも親子のような並びだったジェレミー・レナーとW主演。しかも雪景色の犯罪劇ですから、そりゃもう期待しまくり。アメリカでの公開は2017年8月でしたから、そのうちに日本でもやるだろうと待っても、一向にやらない。いくら、ワインスタインが大変なことやらかした(直接の因果関係があるかはわからない)とはいえ、このお預けはつらい。今年の4月の時点には出先の本屋さんにDVDが置いてあったので、もう買ってしまおうかともレジに一直線しかけましたが、珍しく劇場で観たいかな(普段は別にそこまでのこだわりがない)と気持ちが揺らぎ、帰国後の公開を待つことにしました。結果的にはこの決断は吉と出て、非常に見ごたえのある一作でしたので、思いとどまった甲斐がありました。

 

現代でも西部劇は成り立つのか問題

ウインド・リバー*1』は新しいホワイト(二重の意味)・ノワールの佳作です。クライム・サスペンスとしても上質ですが、何より重要なのは今作が「現代だからこそ描ける新しい西部劇である」というとこ。「復讐」がテーマになっており、『レヴェナント』とも『スリー・ビルボード』とも『女は二度決断する』ともまた違う、アメリカの歴史にある膿のようなものを見せられたような気がします。まだまだ現代でも、勧善懲悪型の復讐劇が作れたのですね(しかし、娯楽として気持ちいいというワケではない)。オンタイムのアメリカを舞台にしたウェスタン風映画をつくろう、という試みはたくさんありましたが、ここまで明白に西部劇の形に則りながら、ハードな社会的なメッセージをきっちりと余韻として刻みこむことに成功した映画はあまりなかったのではないでしょうか。黒人がリーダーという異例のウェスタンだった『マグニフィセント・セブン』ではインディアンが味方につきますが、基本的には彼らは倒されるべき敵の象徴でした。白人が侵略し、元いた原住民を追いやり、生きる場所を奪っていく。この構図はまだ根強く残っているのですから、看過できるものではない。もしかしたら我々観客も気づかぬうちに「もう終わったこと」にしようとしていたかもしれない歴史を、掘り起こそうという果敢な試みがなされています。《搾取する/される》という構図は、そのまま現代アメリカにどっしり根を下ろしているわけですね。監督曰く「フロンティア三部作」を締めくくるにふさわしい(『ボーダーライン』『最後の追跡』と本作)一本には間違いないです。

*1:『ウィンド・リヴァー』のがいいとは思いますが、変な副題ついてないだけよしとするか