ふしぎなwitchcraft

評論はしないです。雑談。与太話。たびたび脱線するごくごく個人的なこと。

ふたりの姉妹とふたつの王国 フアン・アントニオ・バヨナ『ジュラシック・ワールド/炎の王国』

(本稿には今作のネタバレとなる部分への言及があります)

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もはやどうでもいい些末なことなのかもしれないけれど、とはいえ、この『炎の王国』ってドラクエみたいなタイトルはさすがにいただけないよね。どう考えても原題に倣って『堕とされた王国*1』だよね。あらかじめ。

いやあ、なんとも美味しい映画でした。しかも、一食で、ふたつのジャンルの料理が味わえる。今回は舞台が二つあって、それぞれ恐竜と人間の王国なんですね。前者では『キングコング:髑髏島の巨神』に近いスタイルのモンスター・パニック・ムービー。後者に舞台が切り替わると、テイストもコロッと変わって、古めかしい洋館を舞台としたゴシックホラーの装いに。なんともお財布に一抹の不安がある我々に優しいではないですか。ありがたや。ありがたや。

モンスター映画ですので、まず最初に最低限クリアせねばならないポイントが、なんせ相手は恐竜ですので、人間よりも大きくなくちゃいけません。しかも未知なものなんで、想像力をより働かさなくてはなりません。いかにオモシロく、大きいものを大きく見せるか、監督の腕の見せ所ですね。

そういう観客のモンスター映画への期待は、序盤できちんと叶えられて、オープニングで予想をはるかに上回る迫力と、巨大なるものへの畏怖をもって、スクリーンに出現します。潜水艇がラグーンの底を探索していると、ぬらりと後ろに大きな暗い影が。無事にミッションを果たし、回収した牙を海上へ浮き上げた先にはまた、巨大な何かがいる。おお、まさかな、とここらで我々も勘付くわけですが、潜水艇の中のおじさん達は知りませんから、そのまま帰ろうとします。すると、先ほどの黒い影がぬわっと牙をむいて、巨大なお口でがぶりと飲み込んじゃいます。恐怖にプルプルふるえながら、もう同時にゾクゾク興奮するわけじゃないですか。だって、あのモササウルスですよ。もうここで満足度かなり高いです。巨大演出のツボをきちんと押さえてらっしゃる、バヨナ監督。

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インスタ映え(もう死語なのか)は間違いないですね。

 随所まで行き届いたスカッと感が極めて高い、綿密なホラー演出の積み重ね

ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、前作から3年後に設定されています。島にジュラシック・パークを作り出しておきながら、そのせいで人も死んでるという事実から、保護か見殺しかの板挟みになり、人間代表の語り部ジェフ・ゴールドブラムは火山活動は神の啓示だと、恐竜の王国の存亡を自然に委ねる道を示すんですね。しかし、勇敢か愚かか、人類は恐竜の救出を選択する、というまさに無謀としか言えない作戦に乗り出し、ここにまた人間の欲望が絡みついてくるんですね。

この筋書きだと、辛気臭い現代文明批判じみた作品(まあ実際はそうなんですが)にもなりそうなものを、バヨナ監督は律義なまでのホラー映画に仕立て上げました。

冒頭の巨大演出で、1800円(割引で1600円でしたが)の元は取れた気もしなくはないのですが、そこだけで我々を満足させず、きちんと観客を怖がらせることを第一に考え、ミッションをクリアしていく。偉い。闇の中から差し出される折の向こうの前足、溶岩に照らされ映る顔、ガラスの中に重なる少女と恐竜の開かれた口、などアイデア満載。当たり前のようで、難しい「あぶなーい」な危機一髪シーンを、飽きさせないように巧緻に組み上げ、片時も眠らせる暇を与えません。光と影(特に鏡を使った演出を何度も天丼のように重ねることで、どんどんクライマックスまで心理的な恐怖を増幅させていく手法はお見事)、空間的な奥行きと高さ、粘膜の臭いやおどろおどろしい視覚効果を駆使したリアルな爪、といった五感を揺さぶる要素をフル活用して、突然の大きな音やパターン化しやすいドッキリのような下品な手法に依存しません。ヒッチコックのようなストイックさすら感じます。クレアやフランクリン、そしてメイジーがあげる叫び声も嘘っぽさが見えません。

クリス・プラット麻痺した身体のまま、流れてくる溶岩から逃げようと、軟体動物のように身をよじり、逃げようとする演技はコミカルで、大爆笑ものでした)

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スピルバーグだよなあ、といういくつかのマナーへの忠実さ

ジュラシック・ワールド/炎の王国』、人間同士よりも、人間と恐竜という異種同士のコミュニケーションの方がスムーズに上手くいくんですね。というか、人間が俗物ぞろい。そういった俗物の中で、心を通い合わせる、『E.T.』とまではいかないのだけれど、例に漏れず今作もスピルバーグ的な手つきを丁寧になぞらえているのですね。特にメイジーとブルーの関係性では露骨すぎるくらいに「孤児」であることが強調されており、徹底して「父性の不在・嫌悪」を戯画的なまでに誇張した脚本になりました。

物語の後半で明かされるのですが、今作のキーキャラクターであるメイジー、なんとベンジャミンが作ったクローンだったんですね。自分の娘を亡くしたがために作り出してしまった、というエゴから生まれてしまった悲しい悲劇を背負わされています。当然母親は生まれついていない存在で家政婦に育てられます。父親代わりのミルズも商売主義にとりつかれ、メイジーを粗暴に扱い部屋に閉じ込めます。もう一人、いや、もう一匹、中心にいるのがブルーも、母親が既におらず、ある目的のために粗暴な傭兵に捉えられ、檻に閉じ込められるんですね。そんな「ふたり」を繋ぐのが、圧倒的な父性を湛えたオーウェンなんですね。自分の部屋から知恵を凝らして脱出したメイジーが開いたPCに映し出された、ブルーを育てるオーウェンの姿を見て夢見心地になるメイジーの表情は感動的であり、切なくもあります。彼らを裏切り傷付けたのも、失意から救済するのも「父性」なわけです。メイジーとブルーというふたりの「少女」たちを、オーウェンという「父性」によって、疑似的に「姉妹」し「家族」を再構築する仕草はまさしくスピルバーグ的で、見事なまでに美しい流れです。

なので、今作はものすごく異生物と人間の交流がドラマチックに描かれ、映画が終わるころには、観客とブルー(ないしTレックス)の間には、固い絆のようなものが芽生えていくようなつくりになっていて、前作のような恋愛パートをごっそり削っています。スピルバーグ的「疑似家族」ドラマとホラーという二つの骨格で、ジュラシック・ワールドをふたたび我々の住む地上へ取り戻したのですね。

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ところが、ここまで恐竜に対する優しいまなざしが向けられた一方で、人間同士の心の通じ合い、つまりオーウェンとクレアの関係性が薄く、チャラチャラしたモノに映ってしまうのがもったいない。たしかに、ベタベタなラブシーンが見たいわけではないですので、上に述べたようなテーマの絞り込みは大方成功しています。ただ、最後いきなりこの家族になってしまう、というのはいささか突飛にも思えました。途中クレアがオーウェンのはだけた胸元に手を差し入れる描写も不要(あれはエロゲーのやりすぎなのか)というか、不自然。恋愛パートを削るにしても、最低限の関係性のステップアップは見せてもらいたかった。

あと、両極にある「父性」の側面を描こうという意図、「孤児」物語のカギを握る大仕掛け、はスピルバーグファンとして激賞に値しますが、「父性」と反対に「母性」というものがおざなりにされているのも気になります。クレア女傑は前作と打って変わって大活躍をしますし、メイジーを救うべく勇気のある行動をとりましたが、どうしても女傑感が強すぎて勇敢な戦士が自己犠牲を選んだ、という程度にとどまりましたし、オーウェンの父性の強さと比べると弱い。見せ場もあってカッコいいんですがね。最後の銃口を向ける場面もすごくクール。ロックウッドの家政婦も役回りとしては、「育ての親」らしく、メイジーへの献身的なところを示してもらいたかったものですが、結局何もせず自分の保身に走る姿はガッカリさせられました。立場的にしょうがないけどさあ。唯一の救いは獣医ジアですが、彼女が救えるのはブルーのみなので、やはり全体的にメイジーへの「母性」不足にはひっかかってしまいました。

(せっかく出演したジェフ・ゴールドブラムも、『世界ふしぎ発見』の草野仁みたいな、もったいぶっただけで終わっちゃって、ただの語り部になってしまったのはもったいなかったかなあ)

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ブルー、かわゆい………

2度目の観賞時にエヴァンゲリオン完結編のティーザー映像が前触れなしに流れてきて、しばらく方針としてしまいましたし、周りのざわつきが尋常じゃなかったので、戦力としては上手いと思いますが、やり口としては汚いよなあ、と完全に思うツボなのでした。

今作品の監督である、フアン・アントニオ・バヨナは過去に『永遠の子どもたち』を監督しており、バルセロナ出身の人です。なので、と書くとこじつけ臭いのですが、やはりアメリカの外にいた方ですから、先述したようなマッチョで強権的な父性の戯画化が極端で、そんなテンプレ的な悪辣白人傭兵&実業家を容赦なく殺して見せるんですね。悪役にまったく感情移入させません(歯を集めるのがただのサディスティックな悪趣味だったとは)。またすべての騒動を収めるのが、古き良きアメリカを体現した筋骨隆々のクリス・プラット、というのも最近やってそうで、やってなかった作りですね。まるで英雄のようです。ご丁寧に家まで建てさせています(『許されざる者』参照)。どうでもいいですが、彼は今くらい肉がついているのがベストですよね。

ジュラシック・ワールド/炎の王国』は《誰が恐竜を人間から解放して、王国をビルド&スクラップしていくか》が主題となり、三部作物の橋渡しとしてよくできた大衆娯楽でありながら、どこか現代風刺劇のような風味もある、出来の良い脚本とホラー演出が冴えわたった一作だと思います。久しぶりに上質なモンスター映画が見れました。

kuro-matsu2023.hatenadiary.jp

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<おしまい>

*1:「堕ちた王国」だと味気がないので、カズオ・イシグロのタイトルから借りました