ふしぎなwitchcraft

評論はしないです。雑談。与太話。たびたび脱線するごくごく個人的なこと。

落語型マカロニウェスタン クエンティン・タランティーノ『ジャンゴ 繋がれざる者』

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ハッタリが勝つ正義

いいですね。こういういい加減で、よくできた映画は。飽きがくることがありません。マカロニウェスタンというのもいいです。

1858年。南北戦争の始まる3年ほど前ですね。黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)と歯科医の賞金稼ぎシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)は、偶然賞金首探しによって出会い、知遇を得ます。ジャンゴには奴隷としてとらわれ生き別れになった奥さんがいましたので、このために二人は協力して、農園主カルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)に乗りこみ、彼女を救出しようと、一世一代の大芝居を仕掛けるわけですね。しかし、キャンディというのが目の鋭いやつで、執事(サミュエル・L・ジャクソン)も目ざとく、厄介者。これだけでもうワクワクします。

マカロニ・ウェスタンというのは、もともとは淀川長治先生が名付けた、元はスパゲッティ・ウェスタン(Spaghetti Western)というものなのですが、私もマカロニの方がしっくり来ます。イタリアの西部劇なので、こういう差別化が行われてますが、もともとは西のドイツの西部劇から引き継がれたものだそうです。気障で痛快さがたまらない。セルジオ・レオーニやセルジオ・コルブッチには、ずいぶん親しんできました。

特に、善人のジェイミー・フォックスや怪演ディカプリオを霞ませる、絶品与太話を光らせるクリストフ・ヴァルツの表情の豊かさったらないのですが、彼はドイツのお隣オーストリアの出身です。この人がいるだけで、きっと良い映画なのだろう、という確信が生まれますね。『007/スペクター』はお話としては、割にしょうもなかったですが、ヴァルツが悪役のドンをやってくれていたというだけで、映画としてのクオリティが幾分上がったように思えます。

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これはスタンダップよりも落語とか漫才の血を引いているんだと確信しました

このお話の面白いところは、「ハッタリ合戦を制したモノだけが生き残る」と言うところにあると思います。「偽物」が「本物」の面を被って、その場を支配したものが生き残る、という厳粛なルールが存在します。ここではつまり、善人が悪党の面を被って、一芝居打つ。「良心」や「プライド」に負けると、化けの皮がはがれ、戦線離脱が決定するのですね。誰がペテンなのかわからなくなるドキドキ感がスリル満点です。特に、今作は勧善懲悪の色が強いため、よりハッタリ合戦の白黒がわかりやすいです。しかし、これをやるには、話術(を操る技術)が抜群に上手くやってのけないのといけませんが、この監督はさらりとこなします。

パルプ・フィクション』でも『ヘイトフル・エイト』でも、何をやっても、タランティーノ作品は落語になっていくような感じがあります。きちんとした起承転結があって、そこにのらりくらりとしたテンポの良い与太話で、トントンと話を推進させていく。こういう落語のようなスタイルでやらせて、この人の右に出る作家は、今のところジェームズ・ガンくらいしかいないので、やはり相当稀有な才能なんでしょうね。残虐なバイオレンスをしつこくやっても、それがカラッとしていて、ただ物語を進めるシステムのひとつにすぎないんですね。

会話のリズム感がいい。ジャズのような即興性。説明書きみたいなことが一切ない。暗黙の裡にある観客とのコンセンサスを一切合切無視していく潔さ。それでいて、話芸だけで乗せていく気持ちよさ。これは滅法面白い、と感服してしまうのはこの映画のことですね。ジャズでひと段落あって、そこにアドリブが繋がって、さらにひと山あって、そこにまたアドリブが重なる、リズムの刻み方。映画オタクならではの、サンプリング的な手法も楽しいんですが、シンプルに言葉がスイングしていく、この快楽が堪りません。

随所に「ドリフかよ」とツッコミを入れたくなるボケを挿みこんでくるのも、日本人好きする所以なのかもしれません。志村けんのひとみおばあちゃんのような、サミュエルのジジイボケ。マスクが群れるとごねるも、必死の説得で被って出撃したはいいが、あっけなく虐殺されるKKK。監督自ら爆破されていく身を挺したギャグに至っては、もうまんまドリフ。

『続・荒野の用心棒』『タクシードライバー』『殺しが静かにやってくる』といった引用胃による、ヒップホップ的サンプリング精神に則り、デタラメな歴史観を真っ赤な血と不謹慎な笑いで塗り込む。こういうある種の荒唐無稽さの裏の真理に、偽物が本物に追いつく凄みを垣間見た気がするのですね。それこそまさに、シュルツが、妻であるブルームヒルダを救わんとする姿を、そのまま勇者ジークフリートに重ねたように。

悪党が残らず死んでくれるので、こういう西部劇はやめられないんですね。

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おしまい