ふしぎなwitchcraft

評論はしないです。ただ流れる言葉。雑談。意味のない話。つまらない話。聞くに値しない話。たびたび脱線するごくごく個人的な話。

チャーリー・ブルッカー『ブラック・ミラー/サン・ジュニペロ』

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あなたと歩む世界は

息をのむほど美しいんだ

人寄せぬ荒野の真ん中

私の手の中を握り返したあなた

あなた以外思い残さない

大概の問題は取るに足らない

多くは望まない 神様お願い

代り映えしない明日をください

 

宇多田ヒカル『あなた』の歌詞から思い起こした一作がある。それがNetflixオリジナルアンソロジーシリーズ『ブラック・ミラー』シーズン3第4話を飾る『サン・ジュニペロ』だ。初めて見たとき、そのあまりの潔い尊さに涙が止まらなかった。

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『ブラック・ミラー』はちょっと先の近未来(それは5分後かもしれないし、100年後かもしれない)を描いたSFアンソロジーもので、基本的には発展した科学がもたらす不条理や集団心理的な恐怖を捉えたシニカルな単品が殆どを成す。近いものとしては、ロアルド・ダールモンティ・パイソン星新一筒井康隆藤子・F・不二雄の短編集、『世にも奇妙な物語』シリーズ、トワイライトゾーン、などなど。ああいった後味が好きならば、きっとどこかに好みのものがあるのではないだろうか。ブラックなキレ味が特徴のシリーズだ。逆に、そういった皮肉なものに耐性がない方にとっては、なんとも薦めにくいのだが、そんな中で、ようやくシーズン3で、誰の心にでも甘く響くであろうラブストーリーが生まれた。それが『サン・ジュニペロ』である(今作はエミーで脚本賞を獲得しており、納得の結果である)。

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画像は同じくシーズン3の『殺意の追跡』からのもので、ドローンとSNSのもたらす未来を描いた『攻殻機動隊』のような刑事バディもので、こちらも比較的万人にレコメンドしやすいので、興味のある方は是非とも。

物語は1987年から始まる。クラブではヒットソングがかかり、壁に『ロストボーイ』のポスターがかかり、ネオンが艶かしく光り、ノスタルジックな空気が支配している。流行りのファッションに身を包んだ若者達の中で、冴えないメガネをかけたヨーキーは沈鬱な面持ちで時代から取り残されたように、彷徨っている。当てもなく入った「タッカーズ」で、ヨーキーは一人佇んでいると、ある女性が男を振り払うための出任せの嘘に付き合うことになる。彼女の名前は、ケリー。惹かれるものを感じたケリーに、ヨーキーはベッドに誘われるも「婚約者がいる」断ってしまう。一週間後、諦めきれないヨーキーは、また同じ「タッカーズ」へ向かい、ケリーに想いを告げることで、一夜を共にし、ヨーキーは生まれて初めての経験をすることになった。ベッドで彼女たちは、これまでの恋愛や家族のことを語り合い、忘れがたく、淡い時間を過ごした。そこから、一週間が経ち、ケリーを捜すも、彼女は「タッカーズ」に姿を見せない。バーの店員の提案で「クァグマイア」に向かったが、そこは性と暴力の支配するエリアであった。そこで、ケリーに振られやさぐれていた男と再会し、「今は1980年だ。90年代か2002年にいるかもしれない」と違う時代を捜すように教えられる。それから、また一週間おきに様々な時代を行き来し、ようやくケリーを2002年で見つける。ヨーキーは自分を遠ざけたことへの怒りをぶつけ、ケリーは楽しみたいだけだと言い放つ。しかし、ケリーはヨーキーを傷つけてしまった罪悪感から彼女に謝罪し、心から誰かを愛してしまったことへの戸惑いを告白する。そして、ヨーキーは婚約がもうすぐ控えていること、ケリーは余命が幾許も無いことや死後も「サン・ジュニペロ」に残る気はないことを伝え、現実の世界でも再開することを誓う。

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仮想空間「サン・ジュニペロ」は、醜く年老いてしまった現実と離れ、謂わばノスタルジアに縛られた「亡霊」たちが歩く、死を控えた老人たちと死後の魂の居住地であったのだ。華やかでありながら、空虚で、時代が停止した「死人みたいな街」。ここでは、鏡の向こうの自分を傷つけることもままならず、拳から血を流すこともできない。でも、誰もが過去を悔やみながら、心の傷は抱えていて、ケリーはそんな場所で楽しむためだけに、迫っている「現実」と目を背けるために、深く他人と関わることを避け、ヨーキーを遠ざけてしまう。そんな繋がりたくても、繋がれない彼女たちが、初めて現実の世界で交差したときに、その「痛み」を一緒に抱き合う瞬間に、我々は涙するだろう。「楽しみ」のために、恋に躊躇うヨーキーから「初めて」を奪ったケリーが、本当の恋に苦しみ戸惑う中で、ヨーキーにキスを奪われる関係性の逆転も美しく、心に刺さった。

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ここからのストーリーがどのように進み、彼女たちが「現実」と向き合い、どのような決断をするのかは、今読まれているご自身の目で確認していただくとして、実に興味深いアイディアである。仮想空間で、好きな時代を過ごすことができる。街も様々で、『時計仕掛けのオレンジ』や『マッドマックス』が合わさったエリアも個人的には惹かれてしまう。バーチャルな天国、という言葉は不気味だが、見てみると悪くないんじゃないかと思えても来る。

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ネオンの光彩も、ニコラス・ウィンディング・レフンの作品のように美しく、カットの切り替わりによる仮想空間演出も自然で嫌みがない。どのカメラワークも端正で、尚且つ情緒に溢れており、画面がダイレクトに感情にもたらすカタルシスだけでグッときた(正直、なんでこれがスクリーンで見れないのか、と思ったほどだ)。現実とリンクして、ハッピーなエンディングに向かうにつれて、画面がネオンの闇から解放され、嘘みたいに晴れやかな空に包まれる演出も的確だ。海岸線のドライブは、多幸感で胸がときめきでいっぱいになってしまった。これが獲らなければ、どれがエミーを獲るっていうんだ、という出来栄えで、文句のない傑作短編であった。

(ヨーキーとケリーが一夜を共にした小屋は海辺にあったのだが、そういえば『ムーンライト』でも初めてを主人公が過ごす場所も海辺の砂場であった)

 

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安楽死が果たして、幸福な選択肢の一つなのか、まだまだわからないし、決着がつくことはないと思う。ただ、肉体の痛みだけがリアルではない。ここには強固で、確実で偽りのない、血の通った、強い強い愛があったのだ。

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そして、「現実」ならば、絶対に出会うことの運命になかった、彼女たちが眺める水平線の向こうの夕陽に、報われた恋に、そして生と死の彼岸に思いを馳せながら、『Heaven is a Place on Earth』を聴いて、また涙してしまうのかもしれない。


Belinda Carlisle - Heaven Is A Place On Earth (Official Music Video)

あなた

あなた

 

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少々センチになってしまったが、これを見ずにドラマは語れない、と極論を言ってしまってもよさそうなくらいの素敵な小品なので、お時間のある方は一度。

 

おしまい